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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)207号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)、甲第三号証(昭和六一年九月一〇日付け手続補正書)によれば、本願発明は、ランダムアクセス半導体メモリに関し、特に歩留まりを改善するために余分にメモリを備えたシステムに関するものであり(本願明細書第一頁第三行ないし第五行)、集積回路メモリがより大規模かつ複雑になるにつれ、欠陥ビツトの全くないメモリ配列を製造することはきわめて困難になつてきたことから欠陥のない余分のセルを欠陥セルと置き換えて使用する多数の方法が提案されてきているが、(同第一頁第七行ないし第一五行)、本願発明は、チツプ上に基本メモリに加えて多数の予備行及び列からなる蓄積セルを用意したシステムを提供するもので、基本メモリセルの標準行及び列の各々に付随したデコーダは通常はそのまま動作し、必要に応じて消勢できるように設計されており(同第二頁第一九行ないし第三頁第三行)、前記本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(手続補正書第二頁第一行ないし第一一行)ことが認められる。

2 他方、引用例には審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。

3 相違点の看過について

原告は、本願発明はリンク切断前該リンクは透明ガラス層で被覆されており、ポリシリコンが蒸発する際、被覆ガラスは一種の圧力室を提供し、その後被覆ガラスは破れポリシリコンの蒸気が離散するものである点で引用例記載のものと相違する、と主張する。

そこで検討するに、前掲甲第三号証によれば、本願明細書の特許請求の範囲第1項には、前記本願発明の要旨記載のとおりの構成が記載されていることが認められ、右記載からすると特許請求の範囲第1項には、可溶性導電リンクとガラス層について「可溶性導電リンクは所望の回路構成を画成するために入射レーザパルスにより選択的に蒸発させられて切断されるものである」、「可溶性導電リンクは該レーザパルスに透明なガラス層で被覆されたドープされたポリシリコン層からなるものである」と規定されているだけであつて、可溶性導電リンクを被覆するガラスは一種の圧力室となり、該リンクが蒸発させられて切断されると該被覆ガラスは破れることを意味する直接の記載ないし示唆は認めることができない。

そして、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明にはこの点に関し「このデコーダによつてアクセスされる任意のセルに欠陥がある場合には、このデコーダ内のリンクはレーザ蒸発によつて切断される。望ましい実施例では、リンクは高導電性にドープされたポリシリコン層であり、(中略)切断は一・〇六ミクロンのYAGレーザの高エネルギーパルスによつて行われる。都合の良いことに、切断はメモリチツプの製造がほぼ完了した後で行われる。この時点では、ポリシリコン導体はリンドープガラスによつて覆われているが、放射に対して透明である(本願明細書第七頁第一行ないし第一三行)。」と記載されていることが認められるが、右記載するところは、高エネルギーパレスによるリンク切断時、高導電性のドープされたポリシリコン層からなるリンクは透明なリンドープガラスによつて覆われていることを表わしているのみであつて、被覆ガラスが一種の圧力室として機能し、ポリシリコンが十分高熱となつて完全にガス化するようになし、その後被覆ガラスは破れることによつてポリシリコンの蒸気が離散するとの技術的事項は全く記載されていない。

してみると、原告が主張する被覆ガラスの構成は本願明細書のどこにも開示ないし示唆されておらず、原告の前記主張は本願発明の要旨に基づかないものであるといわざるを得ない。

原告は、本願発明の特許請求の範囲第1項の「可溶性導電リンクは(中略)蒸発させられ」との記載はリンク切断時被覆ガラスは破られる構造であることを示しているものである、と主張する。

しかしながら、可溶性導電リンクがレーザパルスにより気化蒸発させられて切断されるからといつて、該リンクにレーザを照射加熱した時に起こるであろう被覆ガラスの変化の形態は、ポリシリコン導体の熱容量、被覆するガラスの材質、厚さ、形状及び照射するレーザの強さや照射時間等の相互関連によつて多様なものとなることが推測されることからして、被覆ガラスがレーザ照射中は圧力室として機能し、リンク切断後破れるものであるという必然性を認めることはできない。

してみると、特許請求の範囲第1項における右記載は、文字どおり、「リンクはレーザパルスの照射によつて蒸発し切断される」というリンクの切断方法に関する事項を示しているにすぎず、原告の右主張は採用し得ない。

原告はまた、本願明細書の第七頁第九行ないし第一三行には、リンクの切断が行なわれる時点までポリシリコンはガラスで覆われる旨の記載があり、このことは切断後には被覆ガラスは除去されることを示唆している、と主張している。

しかしながら、右記載は前記認定したとおり、切断時ポリシリコンは透明なガラスで覆われていることを示しているにすぎず、リンク切断後、被覆ガラスがどのようになるかについて述べているものではないことは明らかである。したがつて、原告の右主張も採用し得ない。

さらに原告は、被覆ガラスが圧力室を形成するという点は本願発明の構成にかかる動作上の説明に関するものでその説明がないからといつて本願発明の構成の開示を欠いたものとはいえない、と主張している。

しかしながら、被覆ガラスについて、本願明細書には単に可溶性導電リンクを被覆する透明なガラスと規定しているだけであり、右開示された構成からは該被覆ガラスが圧力室として機能するとの必然性を直に認め得ないことは前記認定したとおりであるから、原告の主張は採用し得ないものである。

4 以上のとおりであつて、本願発明と引用例記載のものは相違点<1><2>の二点で相違し、他の構成では一致するとした審決の認定に誤りはなく、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

論理回路素子、該論理回路素子を相互接続する導電線及び該導電線間を結合するよう配置された可溶性導電リンクとが形成された半導体チツプからなり、該可溶性導電リンクは所望の回路構成を画成するために入射レーザパルスにより選択的に蒸発させられ切断されるものであるところの半導体回路装置において、

該可溶性導電リンクは該レーザパルスに透明なガラス層で被覆されたドープされたポリシリコン層からなるものである半導体回路装置。

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